高齢者だけじゃない!人間関係が大きく関係するセルフネグレクトとは?

現在の日本には、健康で衛生的、かつ隣近所と交流する生活を送ることを放棄する人がおり、セルフネグレクトとして社会問題となりつつあります。また最近では高齢者だけではなく、若者にもセルフネグレクトが発生しています。

セルフネグレクトに至るにはさまざまな理由がありますから、その理由を知り、早期発見と早期対処に結び付けることが必要です。ここではセルフネグレクトの定義とこの状態に陥る理由、及び対処法について解説していきます。

セルフネグレクトとは?

セルフネグレクトについて、岸 恵美子氏(東邦大学看護学部教授・地域看護学)は、以下のように定義しています。

いわゆるゴミ屋敷や多数の動物の放し飼いによる家屋の極端な不衛生,本人の著しく不潔な状態,
医療やサービスの繰り返しの拒否などにより,健康に悪影響を及ぼすような状態に陥ることを指す。

医学書院「週刊医学界新聞 第3135号」 2015年7月27日掲載

セルフネグレクトになった方には、食事を取ろうとしない、体が不潔なままなどといった、自分自身の世話を放棄するという現象がみられます。またごみをためたまま、汚れたままの服を着用するという現象がみられることもあります。このような現象が一時的であれば気分の落ち込みの範囲内ですが、それにとどまらず継続的に続くことがセルフネグレクトの特徴です。

また、セルフネグレクトは高齢者だけでなく、若者や働き盛りの世代にも起こり得る現象であり、社会問題となりつつあります。自分自身の生活状態が悪化していることをなかなか認識できないことも特徴です。そのため周囲に助けを求めることもなく、状況を改善する行動も行いません。そればかりでなく、けがをしていたり寝たきりの状態といった明らかに支援が必要な状況であるにもかかわらず、公的機関からの支援を断るということもあります。

その結果、自宅の中で倒れる、足が壊死してしまうといった事態や、最悪の場合は孤独死に結びつくこともあります。またセルフネグレクトの人はごみも適切に処理しなかったり、排便に失敗してもそのまま服を着続けることもあります。このことが悪臭や火災の原因となり、近隣の迷惑となり得ます。

セルフネグレクトの原因って?

セルフネグレクトの原因は一つではなく、その多くは複合的なものです。
その中でも、深刻な心の傷が原因となっているものが多く含まれています。
またセルフネグレクトになる原因は、背景になるものときっかけになるものに分けることができます。

背景としてはひきこもりなどの社会的な孤立、経済的な困難、介護疲れ、災害などがあげられます。また、糖尿病などの慢性疾患、低栄養、アルコール依存症や認知症などにかかっていることもセルフネグレクトの背景となります。

一方、セルフネグレクトになるきっかけとしては自身の入院、配偶者や家族の死、家族とのトラブルなどがあげられます。なかでも老人や身体に障害を抱えている人、認知症の方、年収の低い人は、セルフネグレクトになりやすいといわれています。

2012年にJ Aging Healthがアメリカで行った調査によると、高齢者の9%、年収の低い人、認知症患者、身体障害者では15%もの人にセルフネグレクトが存在するという報告があります。このようにセルフネグレクトは老人がなりやすい傾向はあるものの、若者や働き盛りの人にも起こり得る現象です。

性格にもセルフネグレクトになりやすい傾向を持つものがあります。
物事に執着する人、完璧主義やオール・オア・ナッシングで考える人、何でも他人のせいにする人はセルフネグレクトになりやすい傾向があります。また、なるべく人と関わりたくないと思っている人も孤立化しやすく、セルフネグレクトになりやすい傾向があります。

セルフネグレクトの対処法

セルフネグレクトは自分自身の生活状態を改善しようとしないことが特徴です。
しかし、本人は怠けているわけではなく、深刻な心の不調が行動に現れたものです。

そのため、本人が自ら改善の行動を起こすことを待つといった対応は効果がなく、逆に孤独死という結果を招くことになりかねません。
従って仮に本人が「大丈夫」と言ったとしても、セルフネグレクトが認められた場合は他者が積極的に介入し、生活状態の改善をはかることが必要です。

なかでも親・兄弟や配偶者・子どもといった親族は、問題解決のためのキーパーソンとなります。
このとき叱ったり、逆に手取り足取り世話をするという行動はいけません。
食事を部屋へ持っていくのではなくダイニングまで来させる、訪問者が来たら対応させるなど、本人が自ら改善せざるを得ないような状況をつくることが大切です。

セルフネグレクトは、自治体や地域包括支援センター職員等、専門家による介入を要する場合もあります。
親族だけで対応できないケースについては、積極的に自治体や専門家へ相談することが必要です。

また、郵便配達員や新聞配達員、宅配会社など、地域の人による見守りも効果があります。
以下のような状況の場合は、セルフネグレクトの可能性があります。
特に老人や一人暮らしの方の場合には注意が必要です。

新聞が数日分たまっている

雨戸やカーテンが閉め切ったまま

同じ洗濯物が何日もかかっている

訪問しても会おうとしない

外で姿を見かけない

異臭がする

いつもと違う状況があった場合は市役所や警察、救急に連絡することにより、セルフネグレクトの発見と本人の救出、そして生活改善につなげることができます。

ここまで説明してきた通り、セルフネグレクトは家族や親族、地域との人間関係が大きく関係します。
関係が密であれば、たとえセルフネグレクトになったとしても早期発見、早期対処ができます。
その一方、関係が無い場合はなかなか発見されなかったり、最悪の場合は孤独死になるまで発見されないという事態にもつながってしまいます。